第38章 轍 *
キュッと体育館の床を鳴らし、ボールを投げ飛ばして小学校の遊びを本気でやっている大人たちの姿。
ドッヂボールをするとなった牛垣主任の顔はとても生き生きしていた。
まずは準備運動から入って軽くボールを投げて感覚を取り戻していく。
(久しぶりだけどボール投げ、結構楽しいかも…!)
主任が楽しそうにやっているからこっちまで楽しくなってくる。
いざ試合が始まって主任と同じチームだということに安心し、会社じゃ見せない機敏な動きに胸が躍ってしまう。
(本当に運動神経いいんだな…)
作品の中でも身体能力の高さはずば抜けて飛んでいた。
強力なボールを安定感のある姿勢で受け止め、外野と協力して敵チームの数を減らしていく。
ルールは小学校の時よりも厳しかったが、事前に主任が教えてくれたおかげであとは周りを見ながら行動して何とかなった。
(やば。なんか狙われて…──)
迂闊にては出せない。
というかキャッチできる想像ができない。
奇跡的に生き残っていたため左右にボールを回され、狩られる標的として精神を削られている気分。
素早いワンツー攻撃に翻弄され、態勢を崩すと目の前に黒い影がみえた。
「…!」
ボールを受け止めた牛垣主任は白い歯を出し、指を一本立てる。
(ううっ。女子が絶対キュンってする奴だろ…)
反則過ぎる。
男なのに守られて胸が熱くなってドキドキする。
牛垣主任と打ち解けているメンバーはやりやがったと黄色い声を上げ、ますます熱にあてられてしまった。
「分かるよ分かるっ!あれは男でも心臓射抜かれるわ。でも今は集中切らさないで…っと」
「すみませんっ」
「セーフセーフ。残り1分、勝利目前油断禁物っ!!」
チームの人にちょっぴり注意され、人数を残して勝利。
狙われまくっていたのに不滅の主任が格好良すぎる。
それにしても主任は汗を掻かない体質なのか。
あんなに激しく動いていたのに前髪一本湿ってない。
爽やかで完璧すぎる姿にまた度肝を抜かれそうだ。