第37章 惑溺
主任の海外の知り合い。
テレビから姿を消したって…まさか。
「オルフェ・オーブリー?」
「あっ、知ってる?まあ見てても可笑しくねえか。初めて会ったけど武明に首ったけでさ。あの目はマジだと思う」
「マジって…?」
「マジのマジだよ。既婚者だから諦めてるっぽかったけど。喋れねぇから聞けねぇし、武明遣うのも癪に障る。千恵美さんもあいつと同じ大学出身だから聞いてきてって言えるわけねぇし、兄貴はトンチンカン、佑都くんはちびっ子だし…顔だけはイイから驚きはしなかったけどな」
「主任は男女ともに慕われてるからね。会社でもそうだよ」
オルフェが主任に接する態度や視線は見間違えではなかったようだ。
赤司くんは鋭い。
俺のことをひと目でゲイだと言い当ててきたくらいだ。
そう思ったら映画を見返したくなってきた。
映像の中で本気で口説こうと熱量がどこかしらに匂わせているはず。
「会社での武明ってやっぱクール?」
「うん。きっちりスーツ着てネクタイ締めて、髪もガッとオールバックできめて。オフの姿はギャップあり過ぎて逃げたくなったくらい」
「オフの時みたことねぇの?絶頂期で例の恋人いた時も変装なしでその辺普通に歩いてたけどマジでないの?」
「基本インドアで出掛けること少なかったから」
「成程。納得した。入社した当時は前髪下ろしてたらしいんだけど2年目から前髪上げだしたって兄貴から聞いたことある。湊さんはどっち派?」
「うーん……」
どちらも清潔感があって綺麗だが、男らしさ倍増の前髪なし派か色気倍増の前髪あり派か…正直悩む。
「主任って言ったらやっぱり前髪なしかな。そういう赤司くんは?」
「俺はあり派。理由はそっちの方が見慣れてるから!」
「似たような理由だね」
「それは言えてる」
牛垣主任のことで揉め事になりかけたが、一緒に笑える話題ができて最後まで気まずいご飯の席にはならなかった。