第37章 惑溺
バンッとテーブルを叩いた時、手前の飲み物が鉄板の上にぶち撒かれる。
じゅぅうう~と熱した水蒸気が立ち昇った。
「あっ、やば。どうし──」
「危ねぇだろ!!手ぇ出すな!!あっちッ…」
零した水をどうしようかと腕を伸ばしたら、押し付け返される。
どうやら庇ってくれたらしい。
「水蒸気でも火傷すんだからマジで気ィ付けろ。一生もんになりたくねぇだろ」
「ありがと。でも俺男だから大丈夫」
「オカマだろ」
「それはちょっと違うかな。男らしくないかもだけど女性的じゃない」
「裏でオネエ言葉とか使ってんじゃないの?」
「使わないよ。そういう店にも行ったことない」
「閉鎖的だな。だから長瀬のヤツにコロッと堕とされたんだ。好きって言われてホイホイついてっちゃったんだろ?デートとかちゃんとしてた?」
ちゃんとデートはした。
世間的には男友達として並んで歩いていたが、全員に知ってほしいとは思っていなかったし不満はなかった。
しかし、図星をつかれて何も言えない。
俺は赤司くんのいう股間が緩いやつで先生から公開処刑をくらい、気持ちが弱っているところを狙って長瀬の告白を受け止めた。
当時はそこまで考えてなかったが思い返すと俺の股はゆるゆるだ。
「あー…なんつーか御免。言い過ぎた」
「ううん。俺もそう思う。まんまと図星をつかれたけど落ち込んだわけじゃない。むしろ清々したかな。ロクでもない男としてきたなって。逃げるって思ってもらって構わないけど、日本じゃ自分の求める相手ができないと思って海外に行こうと決めてるんだ」
何とも思わない赤司くんなら自分の夢をいっても問題ないと思った。