第37章 惑溺
いらっしゃいませ~からの何名様ですかと聞かれ、「1名」と答えようとした瞬間…
「湊さんっ!一緒にどうっすか?」
「……赤司くん」
若い店員さんは少し困ったように同席されますか…?と聞いてきて、俺が答えるよりも押しが強い赤司くんが答えてしまい、同じテーブル席で食事をすることになった。
「いや~偶然っ!んや…偶然でもないっか。湊さんもサツに呼ばれた系?」
「あ……もしかして赤司くんも?」
「そ。俺が直接現場に強行した訳じゃないけどさ。SOSもらった張本人ってことで呼ばれたんだ」
赤司くんは先に焼き上がるタネにふりかけをし、ザックザックとイラついたように小口に切っていく。
「あーあ。ホントバカだよな。やばいと思ったんなら部屋なんて上がってんじゃねぇよ。マジでイラつく。あいつ即刻死んでほしいわ」
「………」
「ん? あー…うん?ってかなんで湊さん呼ばれてんの?あれっ?あいつと関係あった?」
鋭い考察に俺は小さく頷いた。
主任とは不仲だと思ったのだがそうでもないらしい。
口当たりがキツイのは若者だから仕方ないとして、長瀬が恨まれるのも当然だと思ったり。
「その関係って聞いちゃってもいい系?俺そっち方面余裕だけど」
「なら、お察しの通り。前の所属先、長瀬と同じところだったんだ」
「前って?」
「海外営業部」
「すっご!ってことは英語ペラペラ?」
「それなりに」
「洋画とか吹き替えなしに見れちゃう系?すっげぇ~」
うちの海外営業部には外国語が全くできない先輩がおり、当初はものすごく理不尽だなと思っていた。
しかし、売り込んだり買い付けたり、営業マンとしての能力がずば抜けていて納得。
外国語が得意だからだけでは利益は生まれない。
相手と信頼できる関係性を築き、円滑に運ぶことで他社よりも絶対的な信用を勝ち取り、その部分での働きはとある先輩から大きく勉強させてもらった。