第37章 惑溺
その当日、携帯に警察から連絡があった。
事件の一連で俺の証言も必要となり、警察署に顔を出す。
「それでは以前、被告人と肉体関係もあったことを認めますか?」
「…はい」
「被告人はどういう人物でしたか?」
「同僚として誇れる頼もしい人物です。それでなお、周りを明るくするムードメーカーのような眩しさがあって、付き合っていてからも…それは変わらずありました。まさか、彼がこのような事件を起こすなど微塵も考えなかったです」
「告白も振ったのも被告人からと聞きましたが」
「間違いありません」
「では、複数の女性関係があったということは」
「…、」
「ご存じなかったですか?」
警察官は更に長瀬を貶める材料を欲している。
やっぱり長瀬は俺と付き合っていながら他の女性と関係を持っていた。
副部長の言ってたことは間違いじゃなかった。
長瀬は欲に乱れていた。
狂おしく好きでありながら牛垣秋彦に陶酔し、一生の罪を犯した。
俺は一度長い溜息をついた。
感情的にならないよう気を付け、言葉を選んで返答を続けた。
「ご協力ありがとうございました」
「失礼します」
事情聴取室を出て、警察署を出てからも溜息が出た。
遠くから見ているだけの警官は格好良いがこういう風な展開になると疲れてしまう。
やましいことは一つもないのに、自分が疑われてるんじゃないかと心拍数が上がってしまう。
「長瀬のヤツ。これからどうなるんだろ……」
判決後、長瀬は何を科せられるのかきちんと聞いておけばよかった。
すぐ後ろに入り口があるけど踝を変える気分にもなれず、いい匂いを漂わせるお好み焼き店のドアを開いた。