第35章 美容院
料理が運ばれてくる間、
主任は話題が切れることなく
話し掛けてきた。
この人は喋り方が上手い。
声質もそうだけど
ゆったりとして落ち着きがある。
「牛垣主任は…その、」
「ん?」
「部下が風邪を引いたら…、
いつも看病しに行ってるんですか?」
この流れで疑問に思ったことを口にした。
身近に頼れる人がいないからと
成人男性の家に押し入り、
あの手厚い看護。
しかも元芸能人だ。
社内だって部下の数人だって
そういう目でみている人は
俺を含めて
現実的に居るわけで、
色々とややこしいことを考えてしまう。
それなのに……
見返りを求めない
やさしさに
頬が熱を上げてしまう。
「角。ずっとその髪型なのか?」
「え…?」
「前髪…、
少し長過ぎやしないか?」
小学校時代からほとんど変わらない
癖毛のないストレート髪。
自分の顔が
特に目付きが嫌いで
隠していた前髪を
細長い角ばった指先で持ち上げられる。
「ッ…」
綺麗な顔が
意地悪っぽくニヤリと笑って
息が出来なくなった。