第35章 美容院
髪に触れた指先が
スローモーションのように離れて行き、
主任は淡々と美容院について語り出す。
ホント憎たらしい。
何度、俺の心臓を着火させたら気が済むんだ。
無自覚な天然たらしめと
逆恨みの気持ちが沸いてしまう。
どうやら主任は
俺の前髪を切りたいらしい。
それよか親友が美容師だなんて
なんかちょっと
オシャレだ。
「主任はいつも、
そこで切ってもらっているんですか?」
聞き返すと主任の目は急に優しくなった。
この人はこんな顔もするんだなって。
親友のことを
本当に大事に想っているのだろう。
そう思うとなんだが羨ましい。
自分にはそういう
なんでも話せるような
信頼できる相手がいない。
……一度、会ってみたいな。
「で、どうする?」
「あ……。
お願いします」
前髪を切ったら変われるだろうか。
逃げ続けてたって
いい事はありはしない。
自分を良くしてくれようとする
牛垣主任を信用して
美容院の予約を取ってもらうことにした。