第34章 訪問者
俺にはないものを
たくさん持っている牛垣主任。
同じようにするってことは
牛垣主任の子供時代も
家族の愛情に恵まれていたんだろうと
勝手に思ったり。
いろいろな写真を見せてもらって
家族の在り方ってやつを
本当の意味で知ったような気がする。
「息子さんって、
奥さん似、なんですか…?」
佑都くんの顔立ちをみて
なにげなく口にした。
会社の人は主任にそっくりって
言っていたけど、
目とか鼻とか輪郭とか…
牛垣主任が完璧すぎるせいか
異なる存在にみえる。
それほど個性的な顔立ちではないけれど
目尻が下がっているところとか
垂れ眉気味なところも
牛垣主任とは真逆と思ったり。
それを言っちゃマズかったのか
主任は少しばかりトーンが下がった。
(子供と似てないはタブーだったか…!!)
口にしてしまったから修正はできない。
主任は「嫁の写真……」と呟きながら
スクロールしまくってる。
これはやばい。
絶対この人のメンタルを傷つけた。
病人相手に子供を自慢したいほど
写真を見せてきたのに。
安易な言動を吐いてしまった。
「あぁ……あった。
ずいぶん撮ってなかったんだな…。
こいつが嫁の千恵美」
「!……」
てっきり佑都くんと一緒に写っている
写真かと勝手に思っていたら、
まさかのツーショット写真。
そこは南国のバカンス。
肩を寄せ合って
朗らかな表情を浮かべている。
奥さんは聡明でかわいらしい人だった。
「きれいな、奥さんですね」
想像はしていた。
そのはずなのに隣りにいる人が
ただひとり愛して、
抱いて、
選んだ人だと思ったら
胸の奥がチクッと痛んだ。
写真を撮ったのは恐らく佑都くん。
小さな手がぼんやりと映り込んでいて
これが
牛垣主任のいる居場所なんだと
思い知った一撃だった。