第34章 訪問者
奥さんとのツーショット写真に
心臓をえぐられたが、
この人は既婚者で
子煩悩だということで
くじけそうになった態勢を持ち直す。
「主任。もうそろそろ帰った方がいいですよ。
俺はもうひとりで大丈夫ですから」
「ああ。
だいぶ口も聞けるようになったしな。
……長居して悪かった。
朝ごはん、簡単に作ったから
よかったら食べてくれ。
幾分は自炊してたんだろう?」
「多少は…。
なにからなにまで面倒掛けてしまって
すみませんでした。
近々、お礼をさせてください」
「気にするな。俺が好きでやったことだ。
お礼なら仕事で返してくれればいい」
「それはもちろん」
俺がお見送りに立ち上がろうとしたら
手を前に出して止められた。
「見送りはいいよ。
少しでも身体を労わってやれ」
「でも鍵……」
「あれって確か、
オートロックじゃなかったか?」
「え、……あっ」
人がくるなんて久々だったから
うっかりしてしまった。
すると牛垣主任は楽しそうに
クスクスと笑い、
顔の熱量があがっていく。
「くく。熱で頭がやられちまったか?
それとも別れが惜しいとか
子供染みたこと言うんじゃないだろうな」
「ど…どっちも違います。
ぼ、ボケてみたんです」
「はは。だったら尚更かわいいボケだ。
もうここでいいよ。
ほら、布団かけてやるから寝ろ」
「おれを子ども扱いしないでください…っ」
マスクの下から
牛垣主任がにやにやしているのが伝わってくる。
子ども扱いされるのは嫌いじゃないけど
それ以上に照れる。
頭が冴えているからよけいに感じてしまう。
「なんなら絵本でも読んでやろうか?
佑都はイチコロだぞ」
「結構です。
早くお家に帰ってください」
「このやろう。急に冷たくなりやがって」
砕けた口調の牛垣主任が笑う。
この人はこういう話し方もするんだなって。
もっと知りたくなってしまった。