第34章 訪問者
そんな出来の悪い両親のことを思い出し、
涙が滲んできた。
「ん? ……泣くほど美味いのか?」
「……ぅん…」
牛垣主任は何か勘違い
しているみたいだけど
そういうことで良いんじゃないか。
実際、こっちの方が手厚い。
どこにでも置いてあるゼリー。
手の込んだ温かい料理。
どう見たって差は歴然。
あんなの、比べるだけ無駄だっていうのに。
涙が止まらなくなった。
「主任。ありがとう…ございました……」
全部食べきれると思ったけど
これが限界みたいだ。
もう食べられない。
ふ~…と満足した息を吐き出すと、
「ああそうだ」と
主任は服を引っ張っていってきた。
「飯食ったら温かくなったろ。
……全身拭いてやるから脱がせるぞ」
「っえ……」
裾を持ち上げられそうになって
ドキッとした。
思わず牛垣主任の腕に手を添えてしまった。
「? その手はなんだ。
自分で脱ぐのか…?」
「…い、いえ…。
もう一人で大丈夫、ですから…」
今になってボロボロ泣いたことが
恥ずかしくなってきた。
それに勢い余って腕なんか触っちゃうし。
ご飯を食べさせてもらって
少し元気が出た。
あとは一人で何とかなりそうな気がして
牛垣主任を家に帰さなければと思い出し、
断ったつもりだったけど。
「人に見られたくない身体でも
しているのか?」
「……い、いえ…。なんでも…」
俺を何者だと思っているんだ。
ゲイだけど一般人だ。
さっきは一人で着替えろって言ったくせに。
考えてもたついている間にも
ゲイだと勘繰られる可能性があった。
大人しく服を脱ぐことを決めたのだった。