第34章 訪問者
一度だけ来てくれた授業参観日があった。
正直いって小1の時だったから
あんまり思い出せない。
正確には
思い出したくないのかもしれない。
子どもながらに
気恥ずかしい思いをした。
保育園の出し物にも来てくれなかった
母親がわざわざ俺のために
足を向けてくれたのだ。
なんだか落ち着かない気分がして
次の問題を答えたら
母はどんな顔をするのだろうって
張り切って手をあげた。
正解する自信があった。
テストの点数も
100点をたくさん獲っていたからだ。
先生にあてられて答えを口にすると
「正解!よくできました~」と
いつもより盛大に褒めてくれる。
みんなの前で発表して正解した。
大きな声も出せた。
母もきっと俺の成長を喜んでいるだろう。
勢いよく後ろに振り返ったら、
そこにいた姿は消えていた。
不自然に空いた親同士の間隔。
俺の錯覚だったのだろうか。
いや間違いなくそこにいた。
本当にそうだったか?
母の隣りにいた誰かの母親と目が合うと
申し訳なさそうな顔をして察した。
親は俺に無関心。
仕事がなによりも大切な命。
あの人たちはずっと俺に対して
薄情な態度で接してきた。
だから忘れていた。
あの人たちが優しくしてくれた出来事。
ささやか過ぎて忘れていた。
小学生高学年の時だったか。
数日間続く高熱。
もしかしてこのまま憔悴して
死ぬんじゃないかって
走馬灯が見えかけた時だった。
気付いたらいつも寝ている
見慣れた自分の部屋ではなくて、
ここが病院だと分かると両親の顔があった。
呆れられて怒られもして、
なまぬるいゼリーを食べさせてもらった。
たったそれだけのこと。
口が聞けるようになったら
いつも通りの関係になったけど。