第34章 訪問者
金色に輝くスープに
煮込まれたうどんの麺と野菜たち。
匂いだけでなく
視覚でも食欲を助長させてきて、
キュルル…っとお腹が鳴った。
「ふ……。食えそうか?
少しでいい。胃に入れておけ」
真ん中には半熟卵が乗っかっていて
さらに艶がかかっている。
お店に出てきそうなうどんだ。
いやそれよりもっと
豪華な気がする。
「あ、つっ……」
湯気を放つ一本の麺が口元にやってきて
口に入るまえに唇にあたった。
ビクッと身体を後ろに引くと
悪い、ごめんな?と優しく声を掛けて
すぐさまレンゲで冷ましてくれる。
……はやく食べたい。
熱々の湯気が消えてしまうその前に。
どんな味がするのか食べたい。
お腹のなかを満たしたい。
口のなかが寂しい。
異常な食欲が沸いてきて
牛垣主任はまた口元まで運んでくれ、
今度はちょうど良い温かみだ。
咀嚼するたびにモチモチした食感。
かつおだしをベースにした醤油と
甘みを含んだ
あっさりとした味わい。
つるっと喉を通ってきて、
ひと口だけなのに満足した気分になる。
ふと、母の顔が浮かんだ。
子どもに対しては無関心。
仕事に対しては熱心。
それが俺の両親だった。