第34章 訪問者
牛垣主任はどんな魔法を使ったのだろう。
温かいタオルで顔や首、
腕まわりを拭いてくれた。
たったそれだけのことなのに
べっとりした気分が
スッキリした気分になった。
ベッドシーツを取り換えたから
ぬくもりは無くなってしまったけど、
寒さは覚えなかった。
つらい身体を横にしてくれて、
慎ましやかな笑みを向けられる。
「まだ寝てていいぞ。
出来たら起こしてやるからな。
それまでゆっくり……」
耳触りの良いトーン。
ずっと見ていたい気もしたけど
寝かしつけるように体をトントンされてたら
瞼が重たくなってきて、
薄っすらと視界が閉じていく。
心地のよい音色。
軽やかなまな板を叩く音が聞こえる。
沸騰した鍋の蓋を開け、
醤油だれの芳ばしい香り。
匂いだけで食欲がそそられる。
俺はそんなに腹が減っていたのだろうか。
空腹感なんて全くなかったのに
……不思議だ。