第34章 訪問者
タオルを手にとった牛垣主任は
「着替えはどこだ?」
と聞いてきた。
洋服は少ないから
クローゼットで事足りている。
「寝てから一度も
着替えてないんだろう?
ほら、バンザーイしろ。バンザイだ」
子どもを相手にするような言い方だけど
俺の身体はすぐ順応しなかった。
身体を見せることに抵抗を覚えた
というよりも
甘えてしまっていいのかという戸惑い。
「いつまでも濡れてるものを
着ていたら
治る風邪も治らないぞ。
動けるんなら自分で着替えろ。
シーツも替えたいしな」
俺が何も答えないでいたら
牛垣主任は立ち上がり、
ベッドシーツを剥がしにかかった。
気持ちが弱っているせいか
甘え損をしたというか、
テキパキして動く牛垣主任に対して
せっかちさも感じて、
だんだん申し訳なくなってきたり…。
「角。こっち向け」
「んぷっ」
「顔拭っただけでもさっぱりしたろ。
昼も何も食べてないんだな。
何も食わんと免疫力は回復しない。
うどん作ってやるから少し待ってろ」
「……」
頭のてっぺんを優しく撫でられた。
慈悲を感じられる。
なにも牛垣主任は
面倒に思っているわけじゃない。
その証拠にお見舞いに来てくれたんだ。
マスクの下から覗かせた目元。
牛垣主任に冷たい人なんかじゃない。
優しい人なんだ。