第34章 訪問者
実家へはしばらく帰ってない。
正月もお盆も
大学進学と同時に……
連絡もそれっきりだ。
「近くに頼れる人は?」
近くに頼れる人……。
それもいない。
両親もいなければ祖父母も親族も、
交流のある友達も
いない。
世の中は意外と便利なもので
ひとりで何とかなること多かったからだ。
ただ、牛垣主任にそんな言い方をされて
長瀬のことを
思い出してしまう。
軽度な花粉で鼻をやられたり
たまに頭痛に襲われることはあるけれど
本格的な発熱なんて久しぶりだった。
久しぶりだから
身体的にも参っているし
精神的にもメンタルがやられそうだし、
解熱剤を追加して
飲んだ方がいいのかもしれない。
ずっとこうしてたら
また嫌な質問されそうな気がして、
大人しく額を出す。
ピピっと一秒ほどで検温し終え、
厳しい顔つきをした。
牛垣主任は「帰れ。」と口にする。
俺が引き下がるまいと言い返したら
まくし立てるように言ってきて、
(こっちは病人なんだぞ……)
しょんぼりした気持ちになった。
俺が黙ってしまうと
ニヤッと意地悪く笑って、
「そんなに働きたけりゃ、
風邪が治ったら扱き使ってやる。
今日はもう帰れ。
分かったな?」
優しさを含んだ声質で
肩をぽんぽんって叩かれた。
これが飴と鞭ってやつか。
まんまと落とされるところだった。
元人気俳優だか
アフレコも経験してるからって、
声に感情表現も上乗せされ、
まんまとその気にさせられる。
これ以上ここに居たらキケンだ。
正常になってから出直そうと改め、
自宅療養を選択したのであった。