第34章 訪問者
また集中が切れると二人のことを
思い出して、鼻を啜る。
ケンジとは違って、可愛らしさの欠片もない牛垣主任。
ネクタイが締まった皺ひとつない黒のスーツ。
乱れることのないキマった髪型。
テキパキと仕事をこなし、
現代機器を使いこなしている。
体温計を出してきたときにはビックリした。
こんな過保護な上司が
いるとは思わなかったからだ。
溺愛する小さい息子がいるとはいえ
ここまで面倒をみるか?
そう思ってたら
「俺は1ヵ月ばかりのおまえを
まだ信用していない。
昼休み前に体調が悪くなったら早めに言え。
分かったな?」と言ってきた。
目の前で
しかもハッキリと信用していないと言われ、
胸にグサッとくるものがあった。
すごい大ダメージを喰らった気分。
冷たい言い方ではあるけれど
そこに優しさが含んだように感じるから
甘えたいような気もして。
でも途中で仕事は投げ出したくないわけで
与えられた仕事をきちんとやり遂げたい。
耳触りのよい牛垣主任の声が聞こえて、
ちらっと視線を上げる。
「鹿又。この要件なんだが……」
鹿又を呼んだ牛垣主任は
並んで立っており、
ふとその距離と身長差にざわっとする。
主任は身長が低いって訳じゃない。
むしろ平均身長よりも高い
180㎝前後。
それに比べ鹿又はバスケットボールの
ユニフォームが似合いそうな体格で、
牛垣よりも視線の位置が高いから
なんだか妙に萌えた。
鹿又はイケメンというほどではないが
ブサイクでもない。
優しそうな目尻の皺とか
清潔感のある短い髪型とか
笑ったら片えくぼが出るところとか、
セドリックほどじゃないが
これもこれで
有り、なんじゃないかと思ったり……。
いやいやいや。どう考えても失礼だ。
どうやら俺の頭は
風邪のせいで汚染されていた。