第5章 髪
二人きりで初めて食事をして、
苦笑いだけど笑みを見せるようになった。
それだけでも豊作だと思う。
「角。ずっとその髪型なのか?」
「え…?」
「前髪…、
少し長過ぎやしないか?」
サラッとした前髪に手を伸ばすと、
大きく目を見開く角。
みるみる耳まで真っ赤にさせ、
見ているのが面白くて頬が緩んでしまう。
「俺の親友が美容師
だということは前に話したろ?
行きつけのところで散髪してるのか?」
「行きつけって程じゃないですけど…、
近所の理容店で」
「理容店となると、
3千~4千円くらいか?」
「えっと…。
2千円ちょっと…です」
美容にはあまり興味がないのか。
単に勇気がないのか。
どちらにせよ、
前髪を切ってやりたい。
「…なるほどな。美容室に興味ないか?
メンズ専門店で
経験豊富だから色々相談しやすい。
俺の紹介で一度だけなら
格安でカット以外にヘッドスパもできるし、
スッキリしてみないか?」