第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
最低気温10℃前後。
最高気温20℃近くまでなる
1年を通せば過ごしやすい温暖気候の秋頃。
マートルビーチ国際空港からバス移動。
治安は良いとはいえない。
歩き慣れたカリフォルニアでも
観光客だとカモ狙いしてくる奴らがおり、
毅然とした態度で街中を進む。
「緊張してきた……」
どんな顔して会えばいいのだろう。
家にいるのかも不安だ。
もう一度、絵葉書をみて住所を確認する。
海岸がみえる別荘。
潮風にそよぎながら砂浜を歩く。
セドリックはこの街で恋人と過ごした。
今は亡き家族公認の素敵な恋人。
「自信なくなってきた……」
セドリックに会って
想いを伝えていいものだろうか。
想いを伝えるために
此処に来て良かったんだろうか。
そんな不安が波とともに強く押し寄せてくる。
「…ん?」
ぼんやり海に魅入っていると
後ろから首輪のない黒い犬が近付いてきた。
大きい犬だったが
人懐っこい優しい目をしており、
ケンジはしゃがみ込んで頭を撫でた。
「よしよしいい子だ。
お前のご主人様はどうしたんだ?
ひとりで散歩中ってことはないよな」
犬はケンジに頭を撫でられて
嬉しそうに尻尾を左右に振っている。
すると向こう側から飼い主と思われる男が現れ、
おもわず息を呑む。
黒い犬はしっかり躾けられたように
主人の足元へ駆けて行き、
ケンジはぎこちない笑みを浮かべて立ち上がった。
「セドリックの犬だったのか」
「ああ」
セドリックは犬にリードをつなぐと
短く返事をした。
ビンテージもののジーパンに
腕まくりしたニットセーターの装い。
スクラブ姿も様になっていたが
こっちの普段着もモデルみたいに格好良かった。