第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
ケンジの予想通り
癌化が進行している所見だった。
腫瘍が大きくなって臓器を圧迫している。
それによって
痛みだけでなく様々な障害を
引き起こしていたことが分かった。
「うちでは終末期をみるくらいだ。
点滴ぐらいはしてやれるが
彼は入院したくないと?」
「仲間の下が一番だと言っています。
たまに往診に行きたいんですけど
血圧計や聴診器を借りて行っても
いいですか?」
「それには看守に話す必要があるな。
凶器にはならんだろうが
金属自体が問題なんだ」
「そうでしたね…」
「熱心なのは分かるが
ケンジを医者の卵として特別扱いもできん。
彼が入院する気になったら
また連れてきてくれ」
「そうですね。
ありがとうございました」
ウォーカーを連れてまた
Cブロックへと戻り、
定期薬と頓服薬について説明する。
ウォーカーは「魔法の水」と気に入っており
オキノームの即効性に味を占める
可能性があったため細心の注意が必要だ。
これを飲めば元気になる。
今までのように動ける。
体のだるさがとれる。
なんてことを言いはじめたら痛みで使用
というよりかは
気分障害による依存兆候だ。
癌の進行を抑える治療薬もない。
限られた環境下の刑務所内。
ただひとつ出来ることは
オピオイドで苦痛による体力消耗を抑えつつ
定期薬であるオキシコンチンで
どれだけベースをカバーできるかが鍵だ。
「これを12時間毎に
飲ませればいいんだな」
「グラフのようにオキシコンチンは
長時間効果が持続する薬だ。
痛みに振り幅があるように
痛み止めにも振り幅がある。
どうしても辛い時だけオキノームを
1日3回まで使っていい。
連用したり、全く効かないようであれば
俺を呼んでくれ」
鎮痛薬による誤認を解消しつつ
賢い人でも全ての知識を
理解するには到底難しいだろう。
病気もそうだ。
少しずつ向き合っていく必要がある。
ケンジの刑期は15年。
ウォーカーの最期まで
サポートできるだろうと
大いに任せてくれと胸を張った。