第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
ルキノとの会話を楽しんでいたところ
後ろの扉が開き、
一人の小柄な男がスペイン語でルキノに話しかけた。
それが終わると
ルキノは真剣な眼差しを向けてくる。
「ケンジ。頼みがある」
「ウォーカーの容態が悪いって
彼はここに来ているのか?」
「!?
俺たちの言葉が分かるのか?」
「ごめん。全部聞こえてた。
俺の母親がラティーノなんだ」
「スペインの血統か?」
「いや、そうじゃない。
俺の両親は日本人だけど
実母が死んで、
再婚した相手がラティーノなんだ。
家の中はスペイン語も
スパングリッシュも飛び交ってた」
「それなら話は早い。
前ボスだったウォーカーは病院嫌いだ。
監房で死ぬって言ってる。
でも俺たちは助けたい」
「分かった。急ごう。
俺に出来ることは限られてるけど
診せてくれ」
「頼んだぞ。ケンジ」
「任せろ」
小柄なラティーノに連れられ、
Cブロックのセキュリティーゲートを通る。
心臓がバクバクしている。
ルキノとは打ち解けたけれど
他の囚人の睨みつける顔面が怖すぎる。
きっとマフィアの息がかかった連中だ。
安易に任せろなんていうんじゃなかった。
アウェイ感ハンパない。
「ボス。連れて来ました」
「お前がケンジだな。
俺はプリズンギャングを仕切っている
モラ・ミゲルだ。
会いたかったよ、ケンジ。
ルキノを助けてくれて感謝している。
ありがとう」
一角の部屋に入ると
図太い声をした巨躯で短髪の男。
強面だが清々した握手を求められる。
メキシコ人の本来の陽気さを思い出すように
気さくでフレンドリーな対応に
少しだけ緊張が和らいだ。