第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
刑務所に教会はなく、
こじんまりとした懺悔室の椅子に
円を描くように座るようになっていた。
人数は16人ほど。
肌の色で争うこともなく
白人の牧師は
神から授かった言葉を口にした。
「回心を呼びかけておられる神の声に
心を開いてください。
父と子と聖霊の御名によって、アーメン」
「アーメン」
ケンジは全く形式が分からず
横にいるコーギーの真似をぎこちなくした。
不作法なケンジを咎めることもせず
順番に罪を告白していった。
「──…私は
病院に入っていく女性を
後ろから殴りました。
その日はツイてないことがあって
たくさん酒を飲み過ぎたんです。
そして私はもっと
ツイてない目に遭いました」
ぼんやりとした意識で他人の罪を耳にする。
それに対して牧師は助言などして
償いを指示する。
囚人はお祈りの言葉を言ったあと
牧師は罪の赦しを与える。
ケンジは他人の罪を耳にしながら思った。
(興味心で来たわけじゃないけど
信頼してない奴に
話せる気はしない……)
自分の罪と他人の罪。
それぞれ重さは違えど記憶には残るもの。
それに自分で犯した罪は都合よく忘れ
他人の罪ほどよく覚える
愚かな生き物なんだと誰かが口にしていたのを
密かに思い出した。