第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
掃除は今まで通りセドリックがまた一人で
熟すだろうということになって
食堂に向かいながら事情を話した。
「お前が自己紹介を省略したから
俺は無駄な労力を遣わされたという訳か」
「無駄じゃない。
早く終われば手伝うよ。
親分に汚い掃除を任せっぱなししてたら
子分を解消されそうだし」
「そんなことしてたら自由時間無くなるぞ」
「何かに没頭してた方がいまは気が楽なんだ。
余計なこと考えなくて済む。
それに医務室は心地がいい」
外の暮らしと檻の中の暮らし。
自由な風も光も大地もなければ
大きく寝転ぶこともできない。
塀の中では
自分の居場所を掴みに行くしかないのだ。
「あっ……セドリック。
人参残ってる」
ケンジがセドリックの皿を見て注意した。
きれいになった皿の隅に残っていた
小さくカットされた人参。
ケンジは思わずニヤッとする。
「屈強な男なのに人参嫌いなんだな」
「好き嫌いは誰にでもある」
「偉そうに言うなよ。
でも懐かしいこと思い出した。
うちの妹のリリーも人参が嫌いなんだ。
だけど、ベビーキャロットは
うさぎみたいにムシャムシャ食べれる。
ミックスベジタブルの人参だけは
不味くて食べられないって言ってた」
するとセドリックは唸ったように
「リリーとは気が合いそうだ」
と、ぽつりと呟いた。
「俺もベビーキャロットの
人参は食べられる」
「ってことは、冷凍臭い
グリーンピースもコーンも同じだけど
あの何とも言えない
食感が合わないってか?」
「その通りだ」
真顔で言い放つセドリックに
ケンジは堪らず失笑してしまった。