第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
背を向けてデスク作業していたバートンは
手を休めて振り返った。
「構わんが、
文字ばかりで面白い本じゃないぞ。
人体構造の方がイラスト付きで
読みやすいと思うのだが」
「ここには分厚い教材がないから
退屈しそうなんです。
術場があるなら見て見たいけど…」
「ちょっと待ってくれ。
ケンジはもしかして医学生か?」
「あ、すみません。
言ってませんでした。
俺、スタンフォード大学医学部の1年──」
まだ自己紹介の途中だったのに
バートンは興奮したように
「なんだって!?」
と眠たそうな目をパチクリさせた。
「すまん。大きな声を出した。
てっきり私は
セドリックに色気づいた少年かと」
「冗談よしてください。
男を抱く趣味なんてない」
「それもそうだな。
理由は何にしろ部門は?」
「麻酔科・周術期および疼痛医学部門です。
模擬OSCE、シュミレータートレーニング、
プログラムオリエンテーションはやって来ました。
ですが臨床実習はまだでして……」
講義や課外活動のなかでしか
経験や知識はないことを告げると
バートン医師はそれはそうだと片眉を上げた。
「今日は勤務外になりそうだから
明日は一緒に患者を診ようか」
「ぜひお願いしますっ」
「あんまり臨床は期待しないでくれよ。
場所も場所だからね」
ケンジは飛びついて喜んだ。