第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
鉄格子をくぐると見えてきた病床。
大部屋の病床には鉄格子のみだが
個室の独房は
更に強化ガラスがされてあった。
「見せもんじゃねえぞ」
「迷子か? クソガキ」
大部屋には口は達者だが
目に見える外傷や
なにかの闘病やらで
療養している病衣をきた囚人たち。
それらを無視すると
一番奥に
あの時みた紺色のスクラブをきた男。
幅広い逞しい背中が
黒人の老人の世話をしているようだった。
「ブライアン。口から零れてる。
急いで食べなくたって
配膳を勝手に片付けたりしない」
「生煮えだ…」
「よく噛んで胃に収めろ。
元気になって早く退院してくれ」
やっぱり他の囚人たちとは全然違う。
冷たい見た目とは裏腹に
患者を雑に扱っている様子もない。
人の良さや優しさが滲んで伝わってくる。
ゆっくり振り向く横顔から
薄っすらあがった口角が見えた。
優しい笑みを向けられるのかと思わず期待した。
だがしかし、
食堂で見かけた時のような
凍り付く冷徹な仮面。
「何の用だ」
敵意を露わにする青い瞳は
全身を突き刺す凍てつく氷の牙。
ケンジの肝が縮んだが
自分を奮い立たせて声を張り上げた。
「今日から一緒に働くことになった。
ケンジ・ニイヤマだ。
よろしく!」
「……そうか」
差し出した手は完全に無視。
視界にすら入ってない。
クールガイの懐に入るのは
かなりの根気と
先が思いやられる思いに至った。