第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
苛立つ気持ちを抑え込み
医務室へ入るため簡単な手続きを済ませる。
待合室の椅子には
患者と思わしき囚人たちがたむろしており、
見張りをしていた看守に
「ここで働きたい」と伝えると
奥の診察室に医師がいると足を向けてくれた。
「あっ……」
白人医師はちょうど診察中だった。
見覚えのある髪型と後ろ姿。
こいつは確か、
護送車でイキっていた白人の若者だ。
右目の下が派手に腫れており
ケンジの顔をみるなりバツの悪い顔をする。
「ここで働きたい物好きの囚人だ。
バートン・ブルーニング医師だ。
挨拶しろ」
「診察中、お時間取らせてしまいすみません。
はじめまして、
ケンジ・ニイヤマと申します。
昨日収監された日本人です。
よろしくお願い致します」
「喋れるんじゃねーか。
でっかい耳糞はとれたかよ」
イキった若者は
生意気な態度をとって
囚人たちにシメられたに違いない。
無精ひげを生やした白人の医師は
年齢は40代半ばくらい。
くたびれた白衣。
白髪まじりのボサボサな髪。
医師としては少々胡散臭そうだが
ケンジはお辞儀をの良さに驚いて、
疲れ気味の目を見開いていた。
「日本の坊やは礼儀正しい好青年だな。
ここに来て5年経つが、
敬意を払われたのは初めてだ。
セドリックから何も聞いてないが
彼のことは知っているかい?
あれは黙ってても目立つだろう」
「はい。食事の席で見かけました」
「仕事は奴から教えてもらってくれ。
奥の病室にいるはずだから」
「ありがとうございます。
それではまた挨拶に伺います」
ケンジは丁寧にお辞儀をして
診察室を出て行った。