第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
ケンジの好奇心は止まらなかった。
こんな気持ちは初めてだ。
あの青い瞳に深く覗き込まれたいと望んでいる。
「なぜあいつだけ青い服を着ている?
あれは医療現場できる手術着だ」
「彼は医務室勤めなんだ。
仕送りのない囚人たちは低い賃金を当てにして
清掃や洗濯、炊事、運搬作業で
働いたりしている。
それ以外はドラッグ、ギャンブル、売春、
外の連中に命令して仕事をやったりね」
セドリックのスクラブ姿に合点がいった。
医務室でも囚人が働ける場がある。
ケンジが目指すのは麻酔科医だが
生きる糧を見つけたように
目に力が宿っていく。
「俺も医務室で働きたい。どうすればいい?」
「ケンジはたしか医者志望だったね。
でもここじゃ切ったり縫ったり、
君が望むことはできない」
「外科医がすべてじゃない。
俺は彼らをサポートする麻酔科医になりたいんだ。
麻酔科医は眠らせたり、痛みをとったりするんだけど一歩間違えれば生命を脅かす医療行為だ。患者は眠っていても痛みを感じていて、例えば強い刺激が加われば血圧や心拍数が乱れる。そこで鎮痛薬の投与量をいじったりする。筋肉を弛緩させて手術の効率をあげたり、手術が終わってからも意識レベルや呼吸や循環の安定をみて──」
「新入り。食事は済んだのか?」
「っ……いえ。急いで食べます」
背後に色黒の看守が立っているのに
気付かなかった。
かなり熱心に喋ってしまい、
理不尽な警棒で殴られる前に食事をかき込んだ。