第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
その日、ケイジは黙秘権を望んだ。
狭くて冷たくて息苦しい拘留所のなかで
チェイスに黙祷を捧げた。
翌日。
面会を許可された途端に
ジェイクが慌てた顔を見せた。
「すまん。ケンジ。
俺の立場じゃどうにもできなかった。
すまない。
俺たち家族はお前を信じている」
「ありがとう、ジェイク。
二人は大丈夫そうか?」
「ミーシアとリリーなら大丈夫だ。
すぐ出られるって言ってる。
それより……
今すぐ優秀な弁護士を雇おう。
事が重大で厄介だ」
ジェイクが肘をつくと同時に耳を摘まんだ。
悩んでいるときに見せる癖みたいなもの。
ジェイクはエリート部門とも
花形部署とも呼ばれる強盗殺人課に所属。
事情聴取を担当する
鷲鼻のエドガー・グローヴが
ケンジに伝えていない
証拠などを知っているということ。
この場では盗聴もカメラも回っている。
迂闊に話すわけにもいかない。
数々の事件を扱ってきたからこそ
ジェイクの目から
自分は今、危険な立場にいることが理解できた。
「弁護士費用は高すぎる。
とてもじゃないが家にそんな金はない」
「親父の遺産を使えばいい。
あれはお前の金だ」
「待ってくれ。それは違う」
「あとは俺が何とかする。
親戚にも友人にもあたってみる」
「あの金はミーシアとリリーに残したものだ。
俺は使えない」
「だったら出世払いでいい。
借金より汚名がついた方がマシだっていうのか?
それは間違っているぞ。
検察側は本気だ。
お前を本当に刑務所にぶち込む気だ。
お前の口で如何こうできる相手じゃない」
よほど強い証拠があるのだろう。
ジェイクは少々熱くなり過ぎるところがある。
家族想いだから余計に。
ケンジは弁護士を頑なに拒み
ひとりで戦うことを選んだのであった。