第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
何事かと思った。
時計をみればちょうど朝の7時。
どう見ても迷惑な時間帯。
Tシャツとパンツで寝ていたケンジは
生あくびをしながら
脱ぎっぱなしのジーパンを履く。
うざったそうな顔をして玄関ドアを開くと、
そこには逮捕状を持った
警察官数人が待ち構えていた。
「ロス市警だ。
ケンジ・ニイヤマで間違いないな?
お前を殺人罪で逮捕する」
「はっ? ちょっと待ってくれ。
俺が殺人?
意味が分からない。
いったい誰を…──」
「昨晩、お前と同じ大学に通う
チェイス・ヒューレットが川沿いで殺された。
ケンジ・ニイヤマ、お前には黙秘権がある。なお、供述は法廷でお前に不利な証拠として用いられる事がある。お前は弁護士の立会いを求める権利がある。もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利がある。
7時11分容疑者確保」
冷たい手錠が両手首に嵌められた。
警察署についてから
踏ん反り返って座る鷲鼻の警察官に
「昨日の夜はなにをしていた?」
と何気ない質問を投げかけてきた。
無実なのに無性に焦った。
その夜はチェイスと飲んでいたからだ。
川沿いにも行った。
でも店を出てからはチェイスとは会っていない。
誰とも会わず家に帰った。
記録係が感情のない目でこちらを見ている。
──供述は法廷でお前に不利な証拠として
用いられることがある。
これが正しくそうだ。
いきなりの逮捕状。
普通に考えておかしすぎる。
何か有益な情報を得たのだろうか。
バーで口論した現場?
だとしてもそれだけでは証拠としては弱い。
「どうした。何も話せんのか?
こりゃ思った以上に恨みがありそうだな」
「チェイスに恨みなんてッ……。
何かの間違いです。
俺はチェイスを殺してない。
殺す理由がない。
もう一度捜査し直してください!!」
「だったら話すんだ。
昨日の夜はなにをしていた?」
「だから俺は何も……」
動揺して何を話せばいいのか
分からなくなってくる。
チェイスが死んだ。
この世を去った。
昨日まで一緒に飲んでいた友人が。
喧嘩別れしたままの友人が。
まとまらない感情がポタポタと零れ落ちてきた。