第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
ケンジが麻酔科医を志す一方で
チェイスは外科医が一番格好いいだろうと
同じ医師の道を志していることを知った。
なんとも派手好きな彼にはぴったりだと思い、
二人で夢を熱く語り合ったものだ。
チェイスとは気が合う反面もあれば
お互いに違う人間であり
知識を身につけるにつれ、
どうでも良いことで衝突することが増えてきた。
ケンジは普段は物静かに見えても
一度火が付けば引き下がらない頑固者。
チェイスは自信家で
自分の信念を曲げない奴だったため、
二人して感情的になって収集が付かなくなる。
本物の兄弟がいない似た者同士
だったからこそ妙な競争心があった。
自分たちの義兄とは殆ど喧嘩しない癖に
少しの小競り合いが積み重なって
小突きあいから足蹴りにかわり、
二人してどんどん口調が荒くなって
知識でまくし立てようとする。
でも一旦離れて冷静になれば
次の日にはケロッと元通り。
だからその夜も、また明日になれば関係が修復されるものだと思っていた。
「──ああもういい分かった。
お前とは話にならない。
俺は帰る」
「逃げんなよ。
まだ話は済んでない。待てよ」
「触るなッ……!
今日はちょっと飲み過ぎた。
頭を冷やしてくる。
お前もぶっ倒れる前に帰れよ」
「おい待てよ。ケンジ…!」
馴染みのバーで飲んで、
酒も入っていたらかなり熱くなった。
すぐ家には帰る気にはなれず、
頭を冷やすため
ぐるっと川沿いの方まで遠回りすることにした。
明日の講義は遅い。
もう少しゆっくり眠れると思っていたら
ドンドンドン
激しく玄関ドアを叩く音で目が覚めた。