第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
そんな時、ケンジの父は
追突事故に巻き込まれて急死した。
ケンジは19歳だった。
ケンジはひどく悲しんだ。
父を心から愛してくれたミーシアも
家族して受け入れてくれたジェイクも
二人の間に生まれてくれたリリーも
同じくらい悲しんだ。
この事故をきっかけに
ロス市警で働くジェイクと同じ警察官を
目指そうと思ったが、
「安月給で命を張る必要なんてない。
絶対にやめてくれ。」と断固反対され、
「お前は優等生だろ」と違う道を諭された。
そして医学の道に進もうと決めたのだ。
薬物に強い関心があったため
研究職も魅力的だと考えていたが
調べていくうちに麻酔科医に興味が沸いた。
麻酔科医は外科手術にとって
24時間必要不可欠であり、
生命を維持するため
複雑な麻酔により適切な処置を行う。
その一方で慢性疼痛や突発性疼痛に対しても
ペインクリニックや緩和医療で
活躍する一面を持っている。
長い人生にとって痛みや苦しみは
いくつになっても和らげてほしいものだ。
裏世界で扱われるドラッグには
医療従事者が使用する麻薬が含まれている。
これに関しては
アメリカ合衆国だけでなく
全世界で課題となっている薬物問題だ。
医療用麻薬は別名:オピオイドとも呼ばれる。
オピオイドは痛みや息苦しさ、
様々な苦痛を緩和してくれる良薬だが
医師の指示を守らず、
使い方を誤れば苦痛を緩和するどころか
オーバードーズ、副作用、依存問題にまで発展する。
それを防ぐためには
医療従事者側と患者との関係性の見直し。
一方通行だけでは適切な医療だとは言えない。
痛くなったら死ぬ。
苦しくなったら死ぬ。
人は誰しも死ぬのが怖いはずだ。
希死念慮や怒り、悲しみ、嫌悪、絶望感、無力感、
自尊心の低下など複雑な感情が入り混じる。
苦痛を和らげることによって
体力の消耗を抑えることができる。
気持ちにも余裕が生まれる。
そこで残された時間を過ごしてほしい。
最期まで人間らしい生活を送らせてあげたいと
ケンジは父の墓前で誓ったのだ。