第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
ケンジは父親の仕事関係で
アメリカに移住し、生活するようになった。
周りに溶け込めないケンジは
小学校、中学校、高校にあがっても
いつも一人だった。
それが苦痛でも何でもない。
もともと集団行動が苦手だったからだ。
「それ、日本の漫画だろ?」
「……そうだけど」
家でゴロゴロしていたら
遊ぶ友達もいないのかと言われてしまい
いじけたケンジは漫画本を持ちだし
はらっぱに寝転んでいた。
そこへやって来たのは
愛犬とフリスビーで遊んでいたと思われる
友達の多いチェイス・ヒューレット。
突然話しかけて何故だか神妙な面持ち。
「その漫画知ってる。大ファンなんだ。
周りにアニメ好きは沢山いるんだが
生憎マイナーな話ができる奴がいなかった。
俺はヒーローが大活躍する漫画より
あの赤い夕日に向かって
走り出すようなスポ根漫画が大好きなんだっ!」
「そうか」
「……ok.
期待を裏切らないリアクションだ。
お前って本当クールドライだよな。
普段笑うことないのかよ。
へい、笑ってみな?」
「面白いことがあれば笑う。
人を冷血人間みたく言うな」
「いま怒ったな。いい表情だ。
でも怒らせることができた。
次は笑わせてやる」
「待て。触るのは無しだぞ」
「そんな小細工はしないさ。
俺の家に来いよ。
ちょうどパイが焼けた頃だ。
ラズベリーは好きか?」
「まあ。割と食べる」
「よし決まりだ。
カミラのお菓子は世界一なんだ。
ぜひ食べさせたい」
強引な言い回しのチェイス。
ラズベリーパイを挟みながら会話してみると
案外気が合う者同士だと気付き、
それから二人は
仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。