第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
神に祈りを捧げて
信じ続けていれば救われるのだろうか。
ケンジは遠慮するように
手を前に出した。
「ない。俺は無神論者だ。
君には悪いが
そういうのにはどうも抵抗がある」
「神はいつなんどきも
僕たちを導いて下さる。
そうしたい時になったらでいい、
僕が案内してあげる。
僕はケンジと仲良くしたい。
質問を続けても?」
「ああ。色々と教えてほしい」
コーギーに向かって
ぎこちない笑みを浮かべた。
今のところ同房者に大きな不満はない。
監房内には古い汚れはあるものの
清潔さが行き届いており、
身の回りの整理整頓のほか
鼻を塞ぎたくなるような悪臭もない。
それに棚の上には
癒しの空間のように日陰を好む
観葉植物が置いてあった。
身なりからも下品で粗悪で
不潔な囚人ではなく、
その点に関しては唯一の救いの手にも思えた。
「僕は外の世界では
ずっと教会にいたんだ。
ケンジは?」
「大学にいた。医学を勉強してたんだ」
「わお、それは素晴らしい。
他の囚人とは違う気がしてたんだ。
分野は?
外科医を目指していたの?」
「いや。俺は……」
ケンジの脳裏には隣りで笑う親友の姿が蘇った。
誰よりも爽やかに笑い、
落ち込んでいる時も吹っ飛ばしてくれる
男気の良さ。
親友は誰からも好かれる人気者なのに
人付き合いが苦手だった
ケンジを振り回すように誘い、
常識の範囲内で二人で非行して遊んだり
楽しんだ思い出の数々。
そんな唯一無二の親友こと、
チェイス・ヒューレットの亡骸を思い出し、
唇が震えて言葉が詰まった。