第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
護送される前のこと。
拘置所に留置されていたケンジは
最終判決の法廷の場に立った。
《──…判決は有罪。
第二級殺人罪の訴因で被告人は
禁固刑15年とする》
木槌が叩かれたと同時に
後ろで嗚咽が響く。
白人の夫婦。
その手に持ったのは
ケンジと同年代の青年が映った遺影写真。
(どうして……。
生きているなら違うと言ってくれ。
チェイス……!!)
歪んだ遺影を見つめ
ケンジは乾いた涙の陰を落とす。
その遺影に映った人物こそ
ケンジの殺人罪に問われることになった親友、
チェイス・ヒューレット。
身に覚えのない指紋付きの凶器のナイフ。
遺体の傍にあったケンジの服のボタン。
口論を目撃したという証言。
「二度と顔をみせないで。
son of a bitch!!」
「っ……」
穏やかな夫婦だったからこそ痛感する。
浴びせられた差別的発言。
チェイスに誘われ、
初めて家に招かれたとき
おおらかな包容力と温かな眼差しが
すべて偽りだったと思えるように。
こんな冷たい目など向けられなかった。
崩れ落ちそうな足を踏みしめ
奥歯をグッと噛みしめるケンジ。
ケンジは最後まで無罪だと繰り返した。
勾留期限ぎりぎりになるまで。
何度も。
「俺はやっていない」と主張し続けた。
しかし結果は15年の実刑判決。
抵抗は無駄だった。
チェイスの報いを晴らすこともできず
真犯人は闇に葬られ
終止符が打たれてしまった。