第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
黒人の看守は言った。
殺人罪は軽くない。
保釈は認められない。
家族との面会は可能だ。
希望するなら電話で手続きするといい。
拘置所でも何度も同じことを言われた。
殺人罪では保釈金どころか
外の世界に出ることは認められないと。
それに家族とは面会といっても
ガラス越しでしか許されない。
回数も厳密に限られ、
直接ぬくもりに触れることさえ叶わない。
「足型を踏んで真っすぐ立て。
プレートを胸の前に」
手錠が外されると
眉なしの看守に
真正面と横からのカメラ撮影。
ケンジに与えられた囚人番号プレート。
抑えつけられるように
何度も念入りにとられる指紋。
受付認証が終わると
また黒人の看守の誘導に従って
黒い線上を歩いて進む。
どこもかしこもゲートだらけ。
何枚越しに歩いては止まってを繰り返す。
「名前を呼ばれるから大人しく待っていろ」
看守の詰め所らしい場所まで
やって来て、
順番待ちの私服の受刑者たちの姿。
ケンジは誰からとも離れた
白い腰掛けに座り、
不安げな様子で視線を配らせる。
あのイキった白人にしろ
どいつもこいつも
柄の悪く喧嘩っ早そうな白人や有色人種。
落ち着いたものはおそらく経験者。
挙動が目立つものは
ケンジと同じく初犯の受刑者。
(俺はこいつらとは違う……っ)
ケンジは先の見えない暗闇に打ちひしがれ
気が滅入り、
こめかみを指で強く抑えつけた。