第31章 加速
仕事のプレッシャーに
見張られているという威圧。
喉が渇いて飲み過ぎたのか
トイレが近くなり、
昼休憩前に立ち上がることにする。
(はあ~……これで少し解放。げっ)
あの視線から逃れて
ほっと一息つくつもりだった。
ファスナーを下ろしていると気配を感じ、
なんとなく横目で確認したら
牛垣主任だった。
心臓が飛びあがる。
「…あ、主任…。お疲れ様です」
「ああ。お疲れ」
牛垣主任から逃げてきたのに、
いやトイレをするのが本来の目的だが
なぜこのタイミングでやって来るのだ。
思わず殺気を漏らしそうになった。
「……」
「……」
仕切り板を挟んだ
そのもう一つ向こう側に立った牛垣主任は
用を足す音を鳴らす。
…意識するな。
意識しないように逸らそうとするも
聞いてしまう。
考えてしまう。
ただの排出行為なのに馬鹿馬鹿しく
思うかもしれない。
意識しない相手だったら
こんなこと考えたりしない。
男が全員、恋愛対象って訳じゃないからだ。
(考えるな…、考えるな俺……)
思考を抑えようとしても
性的なことを思い浮かべてしまう。
困った脳ミソだ。