第31章 加速

一通りもう一度確認して、
請け負った仕事を終わらせる。





「牛垣主任。できました」


「ああ。すぐ目を通す」





未確認ボックスに置こうと思ったが
キーボードから手を離したのがみえて
手渡すことにした。





流れるような指のしぐさ。

爪の色も健康的で整っており、
長くて細い綺麗な指なのに
男らしく角ばった甲がある。



どんな肌触りなんだろう。

手は温かいのだろうか
冷たいのだろうか。

触れられたいとそう考えそうになったが、
現実を思い知る
左手薬指にはめられた控えめに光る白銀の指輪。








この人は既婚者だ。








子供もいる。

人気絶頂なのにもかかわらず
それが理由で突如、
芸能界から立ち去ったと報道された。



相手はたしか一般女性だったか。





そもそもこの人、
結婚する前から女の噂がひどかった。

何股してたのか定かじゃないけど
五人はいたはず。
しかもメディアに報道されても構わないと
言わんばかりの大胆な行動。

相手はすべて一般女性だったから
顔出しはなかったけど。

俳優にしたら致命的な痛手だ。



なのに人気が低迷するどころか
手を出すのは女優とかタレントではなく、
一般女性だから
多少は炎上しても
ファンにわずかな希望を与えたり、
逆にメディアを利用して
知名度がうなぎ上りで一気に躍り出ているし。

意味不明な牛垣マジック。



好き勝手やりまくっている牛垣の真似をして
一般女性との関係を
明らかにした若手俳優たちもいた。

そしたら
スキャンダル流出写真やら
メールのやり取りやら色々売られてしまい、
容赦なくカス扱いされてから
俳優としての生命線を断ち切られる始末。

いつの間にか姿を消した俳優も数知れず。