第30章 注目の的
そんなことを考えている矢先、
鹿又のほかに
牛垣よりも年上の人間が一人いた。
「でも予定より早く、
人事課が動いてくれて助かった。
前にいたやつがこれまた出来るやつで
ギリギリまで働いてくれてたからさ。
日に日に腹大きくなるから気が気でなかった」
「奥月はやつと同期だったから余計にな。
はたから見てて今でも笑える光景だった。
10年越しの結婚って、
どっちもよく踏ん切り付いたよ。ホント」
「失恋話ですか~?」
その光景を知っている女子社員は
恋愛話になった途端、
目を輝かせてこちらにやって来た。
牛垣主任に夢中だったのに
一体いくつ耳がついているんだ。
俺がやって来るまで
働いていたという奥月と同期の女性社員。
奥月とその社員にいい雰囲気でもあったのか
「いや違う。断じて違うっ」と
頑なに拒否したところが
なんとも怪しい。
最後に酒を煽ったのがその証拠だ。
「角。恋仲はいないのか?」
「えっ」
「私も聞きた~い!
ね、ね、いるの? いないの?
年下? 年上?」
奥月は自分にこれ以上踏み込まれたくないと
新参者の俺に刃先を向けてきた。
すぐさま女子社員の目の輝きは
俺のところにやって来て、
言葉に迷いが生じないよう端的に応えた。
「恋人はいたことありません」
「えー嘘! ほんと!?
角くん、顔整ってるのにもったいな~い。
でも好きな子はいたでしょ?
教えてよ~」
「金崎飲み過ぎ。
絡み酒は良くないぞ~」
俺が返答に困っているのを見かねて
鹿又が助けてくれた。
ほっと一安心した。