第30章 注目の的
年齢の話になって
ふと、頭の過ぎったのは
橋爪先生と見に行った最後の映画館でのこと。
たしか18歳の役を演じたときに
牛垣本人も18歳で、
俺が15歳になったばかりの年だった。
つまり牛垣は
現在28歳ということ。
(年下の上司に遣われるって…
不服じゃないのだろうか)
鹿又は33歳と言っていたから
本来なら
主任というポストには、
鹿又が適任だったのかもしれない。
それなのに牛垣という男がやって来て
年下のもとで働くこの現状。
人のうわさで聞いた話だが
牛垣は当初、本社で採用された人間だった。
だから本社で働けると同時に
牛垣にも毎日会うことができていたが
異動が決まってから
嘆く社員も多かったとのこと。
それに自ら支社に行くと
届出を突き出したものもいたらしい。
当然そんな私情は許されなかったが。
給与を落としてまで、
相手もされない一人の人間のために
追い掛ける物好きな人もいたものだ。
「うん? 俺の顔になんか付いてる…?」
「あ…いえ…」
少しばかり鹿又の顔を見過ぎてしまった。
慌てて視線を伏せる。
俺だったら嫌だな、と思った。
鹿又はどれだけの期間、
この部署に務めていたかは分からないが
新参者がやって来て
自分がなると思っていたポストに
年下の顔がいい男がやって来てくるのは。