第30章 注目の的
鹿又も常に話し掛けてくるわけでもなく、
たまに訪ねてくる程度。
俺的にはただ話を聞いてるだけでも
良かったのだが、
そのたびに短い返事を返す。
「角は今年でいくつ?」
「25です」
「ならちょうど宇土と同い年か。
宇土っていうのは
あそこの髪の毛明るいのな。
んでクルクルなのが金崎。
髪の毛長いのが朝日奈だ。
あいつらはうちの女三人衆で
一学年ずつ年が違う」
「主任ばかり追い掛けて
婚期逃さぬよう気を付けて」
「なんだあ? 俺がまだ独身だから
早く結婚しろって?」
ゲームに夢中になっていた
進がぽそっと呟き、
鹿又は少しばかり眉間を吊り上げる。
「あのなあ…。言っとくが俺は
主任のせいで婚期逃してるわけじゃない。
慎重なんだよ。
見た目に騙されて
ふたを開けたらだらしない女なんて御免だね」
「一人暮らしが長いとそうなりますよね~。
もう鹿又さん33でしょ?
そろそろこだわり捨てないと」
「うるせー。余計なお世話だ」
鹿又の隣に座っていた男性社員が
にやにやしながら声を上げる。
その指にはすでに結婚指輪が
嵌められており、
既婚者という余裕の笑みを浮かべていた。