第30章 注目の的
津曲課長や牛垣主任からは
軽蔑される視線は感じなかった。
その上司もくせ者感があり、
かたや元うれっこ俳優だから
表情に出さないだけかもしれないが。
「……あ。そろそろ戻らないと」
ゆっくり悩んでいる時間はない。
時間は進んでいる。
セットしていたタイマー機能が鳴り、
食事を半分以上残したまま
会社に戻ることにする。
でも、これだけは決意できた。
逃げない。
人間関係にはとことん後ろ向きだが
惨めな思いをしたくない。
やれるところまでやっていきたい。
感情が高ぶって
時には泣いてしまうことはあるけれど、
それが弱いことだとは思わない。
今は最高の出会いがないだけで
最愛の人ができないだけ。
必ず出会いが巡ってくる。
そのためにお金を稼ぐのだ。
直接海外へ就職するっていう手もあったが
慣れない土地での一文無しは
想像を絶するにキツイ。
それに裏切った両親への返金もある。
両親は無関心だが
育ててくれた恩は感じている。
何も言えず去るには
せめてお金という形として
返して旅立ちたい。
負の感情に流されないように
言い聞かせ、
視線を浴びる
地獄の職場へと戻っていった。