第30章 注目の的
「おい、角」
戸惑い乱され粗ぶった心を
落ち着かせていると、
不審に思った牛垣が
何度か声を掛けてきていたようだった。
視線を外さず見つめてくる
涼しげな眼もとに
なぜだか無性に冷やかさを感じた。
テレビのニュースで爽やかに挨拶していた
牛垣秋彦はここにはいない。
笑顔が一切なく、淡々と話してくる。
「初日から大丈夫か?
さっきの話し、
聞いていたか?」
「す、すみません…
聞いてませんでした」
「今夜、空いているかと聞いたんだ。
これから一緒に働く
仲間を覚えてもらうためにも
歓迎会を開こうと思ってな。
あまり眠れてないようなら
また今度にしてもいいが」
牛垣主任の視線を感じる。
初日からなにをやってるんだ。
絶対不審に思われた。
意識しすぎて、
ゲイだってバレたかもしれない。
「……いえ。
体調は問題ないです。
できたら早い方が…助かります」
「そうか。ならよかった。
張り切ってる奴らが多かったから
そういってもらえて助かる。
俺の部下はおまえを含め
10人になる。
分からないことは基本的に俺か、
そこに座っている鹿又に聞いてくれ。
いくつか質問したいんだが
支社に来たのは今回が初めてか?」
「すみません…。
こちらに出向くことがなかったもので」
「謝らなくていい。
なら午前中に少し社内をみて回るか。
なにか事前に
知っておきたいことはあるか?」
ふと唇が緩まってもすぐ戻ってしまった。
牛垣主任は質問を繰り返しながら
以前務めていた
仕事内容のことなど聞いてきたのだった。