第29章 もう恋なんて
デスクを上を片付け、
最後の荷物をまとめ終える。
余計なものを
持ち込まないようにしていたから
紙袋ひとつにおさまった。
「湊。みんなからの餞別」
「…ありがとう」
長瀬と友達として話せるのも
これが最後だろう。
コンタクトをとれば
長瀬自身にも迷惑がかかるし、
長瀬の父親からもさらに悪評がつく。
これで良かったんだ。
「忘れものないか?
あんまり元気ないと
ちょっかい出しに行くからな。
……元気でやれよ」
「ああ。短い間でしたが、
今までお世話になりました」
長瀬の言葉を真に受けてはならない。
恋人としても
友達としても
同僚としても
すべては終わった関係。
異動という穏便な形で
終止符が打たれたのだ。
見送ってくれた人たちに一礼し、
エレベーターに乗り込む。
「……頑張らなきゃな」
短く息を吐き出して、
降りて行く
エレベーターのパネルを眺める。
急な異動ではなかったから
長瀬のことは
ある程度、
区切りを付けることができたと思う。
時間が過ぎれば
この想いもきっと薄れていくはず。
大丈夫。
また自分一人で立っていける。
それにだって、
俺には海外に行く目標があるんだから。
いち早く自分の手で叶えなければ。
それには仕事を辞めるわけには行かない。
追い出すことをしなかった
副部長の厚意の対応に
感謝し恩返ししなければならないのだから。