第29章 もう恋なんて
それから間もなくして、
メールで異動先を知ることになった。
3月での異動は異例ではあるが
珍しいことではない。
「…ここって、確か…」
俺が異動する先は、
ある意味途轍もなく競争率が高い部署。
都内には本店と支店を構えており、
いま俺がいるところは本店で
支店への転社命令が出た。
何かの手違いかと思ったが
訂正もされないし、
3月から超人気といわれる部署へ配属。
(嫌な予感しかしない…)
当然のことながら
人事異動の内示は一斉メールで知らされた。
だから羨む人も大勢いるわけで
普段話さない人間が
近くに寄ってきたりした。
「あーあ、羨ましいなぁ。
角くんどんなコネ使ったの?」
「長瀬くんと仲良かったよね!
長瀬くんもガテン系で格好良いけど、
でもやっぱり一度は秋彦様のもとで
”コピー頼む”
”よく頑張ったな”とか言われて、
頭ぽんぽんされちゃって
ドラマチックに働いてみた~いっ」
「短かったときも長かったときも
格好良かったけど、
今のビシッと決まった髪型も悶絶最高よね。
イケメン上司だったら
どんなに辛ぁい仕事も頑張れちゃうのになぁ」
「異動するなら私も支店がいいなぁ。
そしたら秋彦様とエレベーターで一緒になって
きゃ~っ!」
特に苦手な女が群がってきて、
香水の匂いやら
化粧品の匂いやらで
さらに具合が悪くなる。
(なんで女ってこうも臭いんだろ…)
口や鼻を覆いたくなるが
気分の悪さを出せば、
余計に近づいてくることもある。
出来るだけ息をしないようにして
立ち去るのを待つのであった。