第29章 もう恋なんて
2月の空気は冷たくて、
包み込む長瀬の体温は暖かかった。
最後になるかもしれない
長瀬の匂いを
胸にいっぱい溜め込むように息をする。
この先のことを考え、
別れるというのに
胸は切なながらに満たされていく。
「俺はさ…、
どんなにお前のことが好きでも
女と結婚しろって親からきつく言われた。
……ホントごめん。
俺の不注意で
こんなことになっちまって」
「ううん。
止められなかった俺にも問題あるから。
……長瀬。
これからはもう
逢えないんだよな?」
「一度そういう目でみられたらな…。
もしそうすることになったら
親と絶縁する覚悟かな。
でも…俺…、
湊のことすっげえ好きだけど…っ」
「うん…分かってる。大丈夫。
意地悪なこと言ってごめん。
俺…長瀬に出会う前、
お金貯めて
海外に行くつもりだったんだ」
「…」
「俺は…長瀬とは違って
男しか好きになれない。
しかも抱かれたい方だから…
厄介な性質なんだ。
絶対に女の子を好きになんてなれない。
だから海外に逃亡して、
そこで幸せを見つけようって思ってた。
長瀬とのことも、
日本での良い思い出にすること出来るから…
俺は大丈夫だから、
長瀬は…とことん幸せになってくれよ…っ」
泣かないつもりだったのに
顔を上げたら…
泣きそうな長瀬の顔が目に入った。
一筋の涙がこぼれていく。
「…あぁ。湊も、幸せになれよ」
長瀬はくしゃっと笑って、
最後の口づけを落とす。
触れあってはいけないのに…
長瀬のことが
好きで好きでたまらなくて
拒むことなんてできなかった。
離して欲しくないと
震える手で
長瀬の背中に手を回したのであった。