第29章 もう恋なんて
そこにはブランド物の
キーホルダーがあった。
「誕生日おめでとう。
少し遅くなっちゃったけどな。
湊はアクセサリーとか
普段全然身につけてないし、
キーホルダーなら
いつも身につけてくれるかな~って思って」
「…」
「あれ…気に入らなかった?ごめん。
もうこんな事になったから
もらっても迷惑だよな。
俺が持ち帰っても
どうしようもできないし、
捨てても売ってもらっても
全然構わないから…」
「ううん…違くて。
その、忘れてた。…自分の」
デートということで頭がいっぱいで
自分の誕生日なんて
頭の片隅にもなかった。
家を出てからは
祝ってくれる人もいなければ
誕生日を聞いてくる人もいなかった。
長瀬は俺の誕生日の日に合わせて
デートの予定を立てていてくれていたこと、
プレゼントを渡すことだったこと。
最後まで泣かないつもりだったのに
不意を突かれて
嬉し涙が零れてしまう。
「ごめん。
嬉しくって…っ、言葉…でなかった。
こんなことされると
思ってなかったから、嬉しくて…」
「そっか。
じゃあサプライズ大成功だな!」
長瀬はにこっと笑って
腕を伸ばし、
もう触れられないんじゃないかと
思っていた逞しい腕に
抱き寄せられた。