第29章 もう恋なんて
昼は一緒するわけにはいかなくて
元気がないな~と
長瀬は俺に甘い菓子を差し入れてくれた。
当然、俺にだけでなく
近くに居た人たちにも配ってたけど
それでも構ってくれるのが嬉しかった。
(極力接触は控えろっていうのに…)
顔がほころびそうになる。
急に距離をとられたわけじゃないと
安心できたから。
誰がいつ見ているかの状況で
気は抜けなかったけど、
一番態度を変わって欲しくない人が
近くに居てくれたから
…どうしようもなく嬉しく思えた。
──…その日の夜。
長瀬はビルの屋上に俺を呼び出した。
「悪いな。こんなところに呼び出して」
「いや…。
会うところ選ぶわけにもいかないだろう」
長瀬の父親に直接呼ばれて
言われたのだ。
父親にとって
立派な息子に育ってほしくて
女だけでなく男遊びもせず、
真っ当に女の人と結婚して欲しいと望んでいる。
少ない言葉だったからこそ
それがひしひしと伝わってきた。
無関心な俺の両親とはまるで大違い。
「…湊。本当はこれ、
土曜日の日に渡すつもりだったんだけど
いま渡すな」
「…?」
「開けてみて」
長瀬は胸ポケットから
リボンを結んだ箱を手渡してきた。
プレゼントをもらうのは久々で…
何が入っているのだろうと
ドキドキしながらリボンを解いた。