第28章 職場キス
その夕刻。
長瀬の父…副社長のいる部屋に
俺だけ呼び出された。
あのあと課長には
異動命令は覚悟しろとだけ言い、
このさき
長瀬と一緒に未来は叶わないだろうと思った。
「長瀬副部長。
大変申し訳ありませんでした…っ」
「……君は、
由真の、息子の弱味でも
握っているのか?」
「…っえ?」
土下座まではしなかったけど頭を深く下げ、
静止状態でいると副部長は
感情の読めない低く、
ひどく落ち着いた声で
長瀬の話しを持ちだしてきた。
けど。
…弱味…って、なに?
「あれは無類の女好きだ。
クラブにもよく出入りをしている。
社会人になって控えろと言っても
特定の相手を作らず、
女をとっかえひっかえしているような奴だ。
そんな奴がわざわざ男とするか?
君のような男と。
いくら必要なんだ」
「…」
なんだ…それ。
弱味…
クラブ…
とっかえひっかえ…
それは俺と、付き合ってからも
やってたってコト?
確かにすべての休日を
長瀬とともに過ごしてたわけじゃない。
長瀬にはたくさんの友達がいて
交友を深めたり
広げたりしたいからって
夜は食事会をしてるって聞いていたけど。
だけど…、あれ?
俺、長瀬に遊ばれてたの…?