第28章 職場キス
課長と向き合うように
会議室の椅子に座らされ、
呼び出される節もなく困惑する。
仕事は問題なくこなしていたはずだ。
「なぜ呼び出されたのか分からない…
といった顔付きだな」
「あ。もしかして例の企画書の話しですか?
期待の若手である俺たち二人に
任せてくれるっていう…」
「耳が早いな。
その可能性も十分にあったが…
残念ながら期待させるような
喜ばしい話じゃない。
──…正直に応えてくれ。
今日の11時過ぎ、
給湯室で二人でなにをしていた?」
「!?」
全身の神経が縮まった。
課長の前だから少し緊張していた姿勢も
ガチガチに固まって、
全身からイヤな汗が噴き上がる。
まさか…。
「どうなんだ、角。
思い当たる節が
あるんじゃあないのか?」
「……」
太腿の上に置いていた
拳をスーツの布ごと握り合わせる。
なにを言えばいいのだ。
なにを言っても
言い訳にしか聞こえない。
いけないことをしていたんだ。
どうすればいい。
幸せな時間を失いたくない。
長瀬と離れ離れになりたくない。
けど、俺に何ができる。
なにを言えば。
なにを言えば長瀬と、また…。
ダメだ。
もうダメかもしれない。
口数の多い長瀬でさえも黙ってる。
何も言ってくれない。
沈黙が…苦しいよ。