第26章 友達
「じゃあ俺はダークチョコのホットで。
角はなににするか決めた?」
「ホットレモネード」
橋爪先生と同じ匂いのする
コーヒーの類は選びたくなかった。
まさか先生があんなことを
口にするなんて
思っても見なかった。
どうしてあんな事…。
「…さっきの…やっぱりマジな話?」
ズバッと聞いてきたのは何とも長瀬らしい。
俺も長瀬みたいに
いさぎよく堪えたかったけど
うんともすんとも言えなくて、
目を伏せてしまう。
薄っすらと長瀬が
「そっか…」とつぶやいた。
俺自身もどうすればいいのか分からない。
両親や橋爪先生にカミングアウトしたときは
心の準備が整っていた。
けれどさっきのは不意打ち。
戸惑いと焦りで
まともな思考がロックしている。
「まあ…先生には誤解されちまったけどさ。
そう見えたってことは
…俺たちの関係に
嫉妬したのかもな」
「…なんで?」
「こうやって仲良くしてるのが
気に食わなかったんだろうな~って。
女々しいよなぁ~。
唯一無二の友達に嫉妬するなんてよ」
唯一無二の友達。
あえてそこを強調されるかのように
言葉を聞きとってしまう。
これが…トモダチ?
これが…、
「えぇっ?!おい、急に泣くなって。
あーもう。これで涙拭けな」
長瀬は困った声を上げるも
ティッシュを手渡してくれる。
俺の想いが届かなくても。
やっぱり俺、
長瀬が好きみたいだ。