第25章 一度だけ *
こんなに間近で
先生と見つめ合うことなんて
キスのほか思い付かない。
黒縁メガネから
左の斜視を覗かせ、
甘い吐息をこぼして俺の瞳をジッと見てくる。
「僕とキスできて…
泣くほど嬉しい?」
「…う…れしい、です…」
「角もそういう顔…するんだな」
「んう」
唇を撫でるように口付けられ、
一度や二度だけじゃない
柔らかな唇を感触を遊ぶようなキス。
うまく呼吸は出来なくて
苦しかったけど、
タイミングをみて空気を吸い込んで…
息を出すのはなんだか恥ずかしくて
控えめに呼吸を繰り返す。
(っ…先生の、舌…)
ヌルっと唇のあいた隙間から
生温かいものを感じる。
どうしていいものかと
舌のやり場に困っていると
べろりと唇を舐められただけだった。
「…角は表情分かりにくいし
目つきも鋭くて
尖った八重歯も威圧感あって怖いけど、
本当は
男に襲われたくて仕方ないんだな」
「っえ…?」
「そーいう顔…してる」
暗くて強面の顔つき。
歯並びは普通だと思うけど
八重歯が出張ったように尖っていて、
気にしていたことを指摘される。
そしたら慰めるように
また、ちゅっ…と口付けてきた。
「でもやっぱり肌はスベスベだなぁ。
若くて、張りがあって…色白で。
そこらへんの女よりよっぽどキレイだ。
髪はストレートで柔らかくて…
いつも左側に寝癖がついている。
唇もふっくらしてて…
力を入れなきゃ、もっと魅力的だ」
先生は唇をやさしく撫でながら
貶すのではなく、
今度は恥ずかしいほどに褒めてきた。
俺の気にしていた外見を
ジッと間近で観察してきて、
見つめてはキスを繰り返した。